安藤裕康

国際交流基金 理事長

今年もTPAMの季節がやってまいりました。ご参加くださる皆様を心から歓迎します。

20回目となる今回、TPAMにとって初の国際共同製作(TPAMコプロダクション)となる2作品が上演されます。そのうちピチェ・クランチェン(タイ)の新作『Dancing with Death』は世界にさきがけての初演となります。さらに日本、マレーシア、シンガポール、韓国などの作品も上演され、アジア各地のクリエイターたちがまさに今取り組んでいる課題や表現を提示します。

国際交流基金アジアセンターでは今年も世界各地から約50名のプレゼンターを招き、公演やTPAMエクスチェンジ、ミーティングなどを通して、数百人に上る内外の関係者との活発な交流を促進します。

今後TPAMがより一層その機能を充実させ、アジアにおける同時代舞台芸術の国際プラットフォームとして、その地位を確立し、アジアのアーティストや作品を世界の人々とシェアできるよう望んでいます。そして皆様には、TPAMで数多くの有意義な出会いが得られ、将来の協働へとつながるよう願っています。

Hiroyasu Ando

小枝至

公益財団法人神奈川芸術文化財団 理事長

私たちが主催団体として参画する「国際舞台芸術ミーティング」が横浜で開催されるようになり、今年で6 回目となります。改めて、この催事を支えて下さる多くの皆さまのご尽力に深く感謝申し上げます。

今年から新しく始まる「TPAMコンテンポラリー・クラシックス」、そして「TPAMコプロダクション」で展開されるいくつかの作品ではアーティストの創造をKAAT 神奈川芸術劇場がバックアップを行うなど、劇場が一丸となってこの催事に取り組んでおります。また、今回はアジアの同時代の舞台芸術作品がKAAT神奈川芸術劇場だけでなく、神奈川県民ホール 小ホールでも上演されます。

「芸術の創造、人材の育成、賑わいの創出」というミッションを掲げる当劇場も、引き続き芸術文化を支える一翼を担っていけるように邁進してまいります。また、この催事が参加される皆様の芸術文化との新たな出会いと交流の場になることを心より願っております。

Itaru_Koeda

澄川喜一

公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 理事長

横浜は常に「新しいもの」を生み出す風土があり、アートの実験的な試みの機会を提供し、世界に発信していく街です。当財団は、ここ横浜における総合的な芸術文化の振興を使命とし、豊かで魅力的な横浜をつくっていくことを目指しています。今年も、国際舞台芸術ミーティング in 横浜に、当財団が主催者として参画し、舞台芸術の国際的なプラットフォーム形成の一端を担うことができることを大変嬉しく思います。

2015年、横浜では、3年に一度のダンスの祭典「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」も開催され、多くの市民がパフォーミング・アーツを身近に感じることとなりました。横浜で6回目の開催となる今回は、よりアジアにフォーカスをあてる事で、作品と制作者両者が集まる、舞台芸術の「アジアのハブ」として意欲的なプログラムが目白押しとなっています。「国際舞台芸術ミーティング in 横浜2016」が、国内外から集う多くの方にとって、たくさんの出会いの機会となり、舞台芸術分野における活発な交流の場となることを、心より願っております。

Kiichi Sumikawa

丸岡ひろみ

国際舞台芸術ミーティング in 横浜 ディレクター/PARC – 国際舞台芸術交流センター 理事長

開催に先立ちまして、ご参加下さいました皆さま、本催事にご尽力、ご協力下さいました関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

TPAMは今回で20 回目を迎えます。振り返ってみると本催事には様々な岐路がありましたが、最近ではまず2011 年に東京から横浜へ移動したこと、そして「見本市=マーケット」から「ミーティング」へ移行したことがそれに当たります。前者においては単なる開催地の地域的移動というだけではなく、メイン会場のKAAT 神奈川芸術劇場と開催都市の横浜市芸術文化振興財団の参画が主体的且つ継続的である事で、それまで実現できなかった/難しかった様々な事が実現できる様になりました。それは、今回TPAM 初の国際共同製作プロジェクトが実現に至った事などにも表れている様に、後者の「ミーティング」としての成功とその定着に大きく関係しています。

マーケットからミーティングに移行しても、TPAMがクリエイターとプレゼンターが新しい仕事を創造するきっかけを見つける場であるという事が本質的に変わっているわけではありません。この移行は、舞台芸術は社会的な公共財であり、公的な援助を受けるに値するメディアであり、舞台芸術に関わるプロフェッショナルは観客の期待や予想を超えた/に反した価値の提出や問題定義をする作品、共同体の成員が共有しているモラルや価値観を「より良き社会」のために批判批評しうる作品を、売買という言葉から連想される経済原理とは異なる自由な価値観を持って共に作ってゆくべきであるという近代的な考えの浸透を反映していました。日本で言えば、2012 年の「劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)」制定にもその考えの浸透は表れています。第1 回から主催者として参画している国際交流基金を筆頭に、TPAMの主催団体は、公共財としての舞台芸術が持つポテンシャルの高さに理解を示し行動している公共団体として、国内のモデルのひとつであるとも言えるかと思います。

そして直近の岐路は、昨年からアジアにフォーカスした事です。この実現の背景には言うまでもなく国際交流基金に設立されたアジアセンターの全面的な支援がある訳ですが、同時に、前段に挙げたような「近代的」な考え自体に翳りが見え、社会が「不可逆的」に前進することなどあり得ないと誰もがはっきり感じ始めている現在、アジアにおける民族、宗教、価値観の混在、植民地主義以降の複雑なネイション・ビルディング、急速なグローバリゼーションへの柔軟で多様な対応に新たな社会的モデルの可能性を求める眼が惹きつけられるのは必然と言えるかもしれません。

話が大きくなってしまいましたが、ともかく「アジア」としてゆるやかに定義される広範な地域には、公共劇場を中心においた「近代的」舞台芸術文化が存在するエリアは僅かである一方、非常に多様な形でライブ・アートとしてのパフォーミング・アーツが豊かに存在しています。しかしながら、社会を批評/批判的に扱うような演劇行為に従事すること自体が違法であるとみなされる社会も少なくありません。そのような中で非言語的なライブ・パフォーマンスが語るものの探索し尽くせるとは到底思えない豊かさと切実さを少しでも紹介すべく、今年から音楽プログラムも新たに始めることになりました。

このアジア・フォーカスは、アジアの作品やアーティストを世界に紹介する場としてだけではなく、世界の他のエリアの作品やアーティストをアジアに紹介する場としても今後計画していきたいと思っています。そして、「これからはアジアの時代」といった単純な発想ではなく、芸術的価値の偏狭から解放されて舞台人が出会い新たな価値が創造されることを期待しつつ、その難しい課題に向かうために、今年から前述した劇場法制定にも尽力された平田オリザ氏と、氏同様に国際的に活躍する岡田利規氏をアドバイザーに迎える事になりました。お二人と、最近出身地の熊本県立劇場の館長兼理事長に就任された国際政治の研究者であり在日韓国人二世である姜尚中氏との鼎談は、今年の基調講演としてもお聞きいただければと思います。

わずか9 日間の催事ではありますが、本催事がご参加の皆さまの今後のご活躍の一助になる事を祈念して、ご挨拶に代えさせていだきます。

Hiromi_Maruoka